昨年12月に出版された宇都宮徹壱著「異端のチェアマン」読了しました。
村井満氏がチェアマンを務めた2014~2022年の8年間におけるJリーグの歴史をビジネス面から振り返る書籍です。
組織改革とかDXとか、そういう仕事をしているサッカー好きの人にとって、ドンピシャの本です。
例えば、村井さんはチェアマン在任中にJリーグの6社の関連会社を1社に統合する組織改編を遂行してるんですが、こんな図解(↓)付きで当時の苦労話を振り返ってくれています。
株主含めてこれだけ利害関係者がいる中で、関連会社を1社に統合するなんて、コンサル的にはとんでもない難易度なんですが、こんな難題を組織のトップとしてどういうアプローチで改革を断行していったのかが克明に描かれています。
その他にも、DAZNとの大型契約の舞台裏、理事のセクハラによる辞任劇やコロナパンデミックなどの「危機」をどうやって乗り越えたのか、多数の関係者の証言を引用しながら、赤裸々に描写されています。
こういった「ビジネスの裏側」に興味のある人にとっては、異常に面白い本だと思います。
僕のYahoo!批判コラムへのアンサーが書かれている
僕はよくYahoo!エキスパートの記事で、Jリーグに関して疑問に感じる部分を糾弾するコラムを書いているんですが、例えば2014年に2ステージ制が断行された時に、こんな批判記事を書いています(↓)。
あれから10年という月日が経ち、村井さんもチェアマンというポジションを退任されて、当時の内情をやっと語れるようになり、色々と答え合わせができる点が非常に興味深いなと。上記のコラムの疑問点が、この書籍を読むことで解決されます。
ひとつ残念な点を挙げるならば…
3年前には僕、エントリー問題で没収試合が連発された事象に対して、批判記事書いてます。
個人的にはここの真実が一番知りたかったので、前半をすっ飛ばしてこの箇所だけ最初に読みに行ったんですが、「チェアマン不介入の原則」を盾に村井さんはここの部分だけ、口を閉ざしていました。
著者の宇都宮さんも「今でもモヤモヤが拭えない」と表現しています。
村井さんの功績は僕も称えるポジションを取りますが、この「勝ち点剥奪事件」は未だに納得がいっていないし、8年間の統治の中で「唯一の汚点・失政」だと捉えています。
上のコラムでも書いてますが、「規律委員会が決めた懲罰にチェアマンは何も文句が言えない」と言い訳するのは、相当苦しいんです。だって、没収試合を決める根拠となる、フィージビリティの全くないコロナ特別ルールを決裁者として最終承認したのは村井さんなんですから。
ここだけ村井さんが口を閉ざすなら、是非宇都宮さんには「仮説」でもいいので、より踏み込んだ「批判」をしてほしかった、というのが本音です。自叙伝ではなく、第3者が描くノンフィクションだからこそ、書ける部分だったかなと。
他にも興味深い小ネタが満載
ビジネス的にかなり面白いところは、2020年のコロナ禍で木村正明専務理事が、スポンサー企業の税優遇措置を勝ち取った際のエピソード。
「Jクラブへの協賛費(広告費)を損金として計上して良い」という新解釈は、コロナ禍で苦しむ各Jクラブを救った必殺技だったわけですが、霞が関を駆けずり回ってハードネゴシエーションを完遂する裏話は必読です。
他にも村井さんのプライベートの話も興味深かったです。奥さんの話とか学生時代の旅の話とか、ネタバレ回避のため詳細は本編に譲りますが、「異端のチェアマン」の人格形成にどんなものが寄与したのか、推測できる造りになっているのが良いですね。
ということで、興味を持った方はポチっとな!→異端のチェアマン
(2023年11月からアマゾンの画像リンクが使えなくなったので、テキストリンクで)