ハリルホジッチ日本代表監督を解任した理由について、「コミュニケーション不足」のみで一点突破を計ったJFA田嶋幸三会長。
この理由だけでは説明責任を当然果たしておらず、サポーターやメディア界隈では解任の真因について、様々な憶測が飛び交っている。
スポンサーや電通の陰謀論だったり、本田圭佑など中心選手による謀反説だったり、JFA内の派閥争いをトリガーとする説だったり、まあ本当に色々な推察が出ている。
その中でも僕は「原・霜田ラインvs田嶋ラインの派閥争い」が、今回の解任劇の根本原因となった説を有力視していたのだが、本日5月25日発売の五百蔵容著の「砕かれたハリルホジッチ・プラン」を読んで、その推測が確信に変わった。
「霜田正浩の証言」の章が必読
この本は元々、日本代表がハリルホジッチ体制でロシアワールドカップに挑むことを前提に書かれた書籍だったが、脱稿直前にハリルホジッチ解任劇に見舞われ、急遽構成が変わり、大幅に加筆・修正されて(タイトルまで変更されて)、出版に至ったという経緯がある。
序盤はハリルホジッチの思考を知る上で重要な試合(アルジェリア代表監督時代の対ドイツ戦や、日本代表監督としてアジア最終予選突破を決めた対豪州戦など)について、主にタクティクス面に特化した解説があったり、岡田ジャパン、ザックジャパン時代の戦略にフォーカスを当てたりしている。
正直、本の前半はサッカー戦術オタクじゃないと難易度が高い文章だと思うが、それよりも何よりも、僕はお尻に付録的についている「霜田正浩の証言」が、目から鱗だった。
監督解任劇前の取材だが、霜田氏のハリルホジッチ監督に対する評価が赤裸々に書かれている。この23ページにもわたる霜田氏の論説を読めば、誰もがこう思うだろう。
「霜田氏がJFAに残ってさえいれば、W杯2カ月前の監督解任という悲劇は回避できていたのではないか」と。
霜田氏がJFAを去った経緯
霜田氏は、自身がJFAの技術委員長だった2015年に、ハリルホジッチ氏を日本代表の監督に招聘した張本人(現在はレノファ山口FCの監督)。
2016年1月に日本サッカー協会会長の選挙が行われ、副会長の田嶋幸三氏と専務理事の原博実氏の一騎打ちで、僅差で田嶋氏が勝利。これを受けて2016年3月の人事で、原氏は2階級降格の理事職、原氏の愛弟子である霜田氏はナショナルチームダイレクターという、とりあえず横文字並べてみました的な新設のポジションに異動(事実上の降格人事)。
原氏はこの降格人事により、JFAを離れてJリーグ副理事長に就任。霜田氏は半年間残ったが、2016年11月に離職した(当時の記事はこちら)。
霜田氏が語るハリルホジッチのコミュニケーション力
ここからは仮説になるが、選挙で争った原・霜田ラインが連れてきた監督は、ある意味田嶋会長にとってみれば「目の上のたんこぶ」状態で、この解任劇は2年前の会長選挙を勝ち抜いた時点から、思い描いていたストーリーなのではないかと。
派閥争いで勝利した側が、負かした派閥メンバーを人事異動で「干す」という行為は一般の企業や組織でもよくあること。
2016年11月には、ハリルホジッチの「後ろ盾」はJFA内からいなくなったが、自分の意のままに動く西野技術委員長を監督に据えるために、「緊急事態」というワードを使えるW杯2カ月前まで敢えて引っ張ったのではないか?
この仮説が正しいかどうかは今のところ確かめようがないが、この本を読むと、霜田氏がいかにハリルホジッチ(と彼が率いるチーム全体)を高く評価していたかが手に取るようにわかる。そんなハリルホジッチの後ろ盾を人事異動で干した田嶋氏。
選挙→降格人事→霜田氏退任→ハリル解任劇という依存関係がキレイに繋がって見えるのは、僕だけだろうかーー。
ちなみにひとつ断っておくと、霜田氏に対する取材は解任劇の前なので、特に田嶋会長に対する所見などは書かれていないし、霜田氏自身がJFAを去った際の事情はこの証言では触れられていない。つまり上記の仮説は書籍に基づくものではなく、僕の勝手な妄想だ。
とはいえ、書籍内で霜田氏がハリルホジッチの「コミュニケーションの取り方」を力説するところは必読。田嶋氏の見解との差がまざまざと浮き彫りになる。
ハリルホジッチ解任劇について、少しでも真相に近づきたい人は、千円払って読む価値が確実にある。日本代表サポーターはロシアワールドカップ前に必ず読んでおきたい。
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